2025年3月決算の上場会社・上場準備会社において、特に留意すべき会計基準(日本基準)の改正として、

(1)「防衛特別法人税」に関する法律が2025年3月31日に国会で成立したことに伴う税効果会計の影響
(2)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)およびその関連規程の改正

が挙げられます。上記以外には、多くの上場会社・上場準備会社にとって重要な影響のある改正はありません。

(1)2025年3月31日に「防衛特別法人税」に関する法律が国会で成立したことに伴う税効果会計の影響
 「所得税法等の一部を改正する法律(令和7年法律第13号)」が2025年3月31日に国会で成立したことに伴い、2026年4月1日以降開始する事業年度より、「防衛特別法人税」の課税が行われることとなりました。従って、2026年4月1日以後に開始する事業年度に解消が見込まれる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に際して、法定実効税率を以下の算式により計算する必要があります。

 尚、2025年1月決算、2025年2月決算の上場会社・上場準備会社の有価証券報告書では、「税効果会計関係」の注記において当該改正の概要及びその影響額を記載する必要があります。注記の具体的な記載イメージは以下の通りです。

(税効果会計関係の注記)
決算日後における法人税等の税率の変更
「所得税法等の一部を改正する法律(令和7年法律第13号)」が2025年3月31日に国会で成立したことに伴い、2026年4月1日以降開始する事業年度より、「防衛特別法人税」の課税が行われることとなりました。
これに伴い、2026年4月1日以降開始する事業年度以降に解消が見込まれる一時差異に係る繰延税金資産及び繰延税金負債については、法定実効税率が〇.〇%から〇.〇%へと変更されます。
変更後の法定実効税率を適用した場合、繰延税金資産が○○千円増加(減少)し、法人税等調整額が,○○千円増加(減少)いたします。

(2)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)およびその関連規程の改正
 当該改正で影響を受ける会計基準は以下の通りです。
いずれの基準も2024年4月1日以降開始する連結会計年度・事業年度期首から適用となります。

企業会計基準27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」
企業会計基準25号「包括利益の表示に関する会計基準」
企業会計基準適用指針28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、「税効果適用指針」)
https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards/y2022/2022-1028.html

本改正での実務上のポイントは以下の通りです。

①その他の包括利益に対する税金費用の計上箇所の変更
 その他の包括利益に対する税金費用は、従来、損益計算書で「法人税等」として計上していたところ、その他の包括利益での調整となります。会計上その他包括利益として計上されるものの内、税務上損金・益金として計上されるものが当改正の影響を受けるますが、現行の会計実務上の代表的な該当事例は以下の通りと限定的であり、多くの上場会社にとってはインパクトが少ないと考えられます。

・グループ通算制度の開始時または加入時に、会計上、評価・換算差額等またはその他の包括利益累計額が計上されている資産または負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合
・退職給付について確定給付制度を採用しており、連結財務諸表上、未認識数理計算上の差異等をその他の包括利益累計額として計上している場合において、確定給付企業年金に係る規約に基づいて支出した掛金等の額が、税務上、支出の時点で損金の額に算入される場合※1
・非適格組織再編において、会計上、評価・換算差額等またはその他の包括利益累計額が計上されている資産または負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合
・投資をしている在外子会社の持分に対してヘッジ会計を適用している場合などにおいて、税務上は当該ヘッジ会計が認められず、課税される場合

※1:退職給付に関する取引については、通常であれば、「金額の算定が困難な場合」に該当するとされており、金額の算定が困難な場合に該当すると判断された場合には、本改正の影響を受けないこととなります。

②グループ法人税制が適用される場合、子会社株式等の売却に伴う税効果の会計処理が明確化
 グループ法人税制が適用され、かつ、子会社株式等の売却の意思決定を行う場合は、これに関する売却損益が繰延べられる場合であっても税効果を認識していましたが、売却損益が繰り延べられる場合は税効果を認識しないこととされました(税効果適用指針22項、23項)。従来の会計処理は、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られないものとなっていたため、この点を改善するために本改正が行われています。

文責:株式会社みらい会計舎 公認会計士・税理士 近藤洋治
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